地図とコンパス

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【世界とは何か】1.世界は何で出来ているのか ー 1−2.素粒子

1−2.素粒子
 「世界は何でできているのか」という問いの答えとして、アラビア・ヨーロッパでは18世紀になるまでアリストテレス四元素説が信じられた。中国では四元素説とよく比較されることの多い五行説(木・火・土・金・水)が支持された。
 18世紀頃、ヨーロッパでは錬金術を元にする化学実験が盛んだった。錬金術が発展してくると、金や銀などのある種類の物質は他の物質からはどうがんばっても合成できないことがわかってくる。ボイルは、種類の異なる物質はそれぞれ異なる構成要素でできていると考え、元素の存在を予言した。質量保存の法則により元素の存在は支持され、ドルトンによって近代的な原子論が唱えられた。その後、原子は実験により次々と発見されていった。現在(2018年)、118種類の原子の存在が認められている。
 19世紀後半以降の電磁気学量子力学の確立は、原子は物質の最小単位ではないことを示した。ラザフォードは、金箔にアルファ粒子をぶつける実験を行うことで、原子の中にプラスの電荷をもつ原子核の存在を発見した。その後、原子は原子核と電子という内部構造をもち、原子核は陽子と中性子、陽子と中性子クォークでできている、といった具合に、物質の最小単位を求める研究は飛躍的に発展していった。
 現代では素粒子と呼ばれるものが最小の物質と考えられている。20世紀の物理学の飛躍的な発展の成果として、物理学の金字塔とも称される「標準理論」がつくられた。標準理論は素粒子を軸にして「世界は何で出来ているのか」、「どんな法則に支配されているのか」をまとめたものである。標準理論は、世界の根源を探る物理学者たちのロマンの結晶だといえる。
 標準理論は宇宙の真の姿を表す美しい理論なのに、日本のほとんどの人達は知らない。僕自身、自分で興味をもって調べてみて初めて素粒子論や量子力学を知った。高校までの義務教育では、運動方程式や運動エネルギーなどのニュートン古典力学までしか習わず、相対性理論量子力学素粒子論を教えてもらえないためだ。多感な青年時代に世界の真の姿を習うことができないのは残念な気がする。古典力学と相対論・量子論は、考え方が大きく違うので、素粒子論を理解することが余計に難しくなってしまっている。相対論や量子力学は次節で知ることにして、この節では素粒子論の概要を知ることにしよう。
 

 図1に、標準模型に含まれる17種類の素粒子の一覧を示す。素粒子の一番大きな分類はフェルミオンとボソンである。フェルミオンはおもに物質を形作る素粒子である。対してボソンは、電磁気力や重力などの場によって働く力のもとになるもの、つまるところ力の正体と考えればいい。フェルミオンとボソンはパウリの排他原理でも区別される。要するにフェルミオンは同じ場所に重ね合わせることができず、ボソンは重ね合わせることができる、という法則だ。フェルミオンが同じ場所に重ね合わせることができたらりんごのある場所にりんごを置くということができてしまうようなものなので、まあ、当たり前のことをいっているのだ。ちなみにパウリの排他原理は化学でも扱われており、「ひとつの電子軌道にはスピンの異なる二つの電子しか存在できない」という法則で使われている。
 

 

 

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図1 標準模型

 https://ja.wikipedia.org/wiki/素粒子

 

 フェルミオンクォークレプトンに分類される。クォークは陽子や中性子を構成するもので、レプトンは電子やニュートリノという単体で存在する粒子のことだ。クォークハドロンという複合粒子(陽子や中性子)を構成して存在している。実はクォーク単体で観察されたことはほとんどなく、ハドロンの観察結果からクォークの性質を推論している。単体で存在できないのは、「クォークの閉じ込め」と呼ばれる現象のせいだ。「強い力」を伝えるグルーオンというゲージ粒子クォーク同士をくっつけており、グルーオンを引き剥がそうとすると新たなハドロンが形成されるため、クォーク単体を取り出すことはできない。
 レプトンに含まれるニュートリノは、僕たちの空間を、1秒間に1平方センチメートルあたり660億個通り抜けている。こんなにあるのに気づかないのは、彼らが電荷をもたないからだ。電子は電荷をもつおかげで、反発しあい、物質を形作ることができるが、ニュートリノ電荷をもたないため物質をすり抜ける。レプトンは、クォークのように「強い力」でくっつけられることがない。
 クォークレプトンは、質量の大きさによって三世代にわけられている。第三世代から第一世代にいくにつれてクォークにとっては安定的な状態であるため、ほとんど第一世代しか存在しない。第二世代以降は加速器宇宙線などの高エネルギー状態でしか存在しない。

 物質を構成するフェルミオンに対して、ボソンは力を伝える粒子だ。ボソンはさらにゲージ粒子ヒッグス粒子に分類される。ゲージ粒子は、フェルミオンをくっつけて世界を形作る4つの力の元になるものだ。実は、世界には力は4つしかない。①電磁気力②重力③クォークをくっつけてハドロンをつくる力(強い力)④粒子の崩壊を促す力(弱い力)。僕たちの世界でものが動く原因は、小さく遡っていくと、この4つの力しかないのだ。そして、これらの力はすべてゲージ粒子という素粒子の交換がなされることにより生み出されている。「力」と「力を伝える素粒子」の関係を図2に示しておく。これら4つの力は、ゲージ理論という粒子が力を媒介するという考え方の理論において基本相互作用という名称で呼ばれている。
 ヒッグス粒子は、2012年に発見されたというニュースが記憶に新しい。ヒッグス粒子は、物質に質量を与える粒子として知られている。前述した4つの力のうち、弱い力は他の力に対して近くの対象しか届かない。この理由を説明するのに考え出されたのがヒッグス粒子だ。弱い力を運ぶウィークボソンヒッグス粒子にぶつかることで距離が短くなる。ぶつかるときのエネルギーが質量になるというわけだ。ヒッグス粒子は電子にも衝突するため、電子は質量をもつと考えられている。
 驚くことに、「世界は何でできているのか」という問いには、物質を構成するものだけでなく、「力」も入るのだ。力の正体が物質であると考えるのは、僕たちには理解しにくい。力を粒子の交換だと考えるためには「場」の考え方が必要になる。

 標準理論で扱う素粒子の世界は宇宙全体から観るとほんの一部(5%)にすぎないことがわかっている。僕たちは、「世界が何でできているか」という問いに科学的に答えを見出したかに見えたが、実際はまだまだわからないことだらけだということだ。

 この節では、「世界は何で出来ているのか」という問いに対して、世界の物質を構成する最小単位、というものを考えることで解答してきた。古代においては、物質の根源の探求は哲学の領域だった。二千年の時を経て物理学は発展し、科学的手法で素粒子という、物質の最小単位を発見した。結果、世界には物質を構成するものだけでなく、力を伝えるための粒子も存在することがわかった。となれば、世界を支配する法則について見ていくことが必要だろう。次節では、世界を支配する法則について知っていくことにしよう。

 

参考文献

https://ja.wikipedia.org/wiki/素粒子

http://www.sic.shibaura-it.ac.jp/~a-hatano/a-hatano/education-BC_files/基礎化学1原子論-.pdf
https://www.icepp.s.u-tokyo.ac.jp/elementaryparticle/index.html
https://wired.jp/2012/07/06/what-can-we-do-with-the-higgs-boson/

『宇宙は何でできているのか』村山斉著 

https://www.amazon.co.jp/宇宙は何でできているのか-幻冬舎新書-村山-斉/dp/434498188X

 

http://physics.blog.aerie.jp/entry/2014/12/03/000000